将棋から引き分けをなくすには?

将棋の変則ルールにはトライルールというのがあります。トライルールは、個人的には退屈な入玉将棋をよりスリリングにする、とても良いルールだと思います。

採用する/しないは別として、このような変則ルールについて考えてみることは思考トレーニングとしてとても有益でしょう。

さて、今日は、こんな問題が届いております。

今回の質問は、

1. 合法手が無くなったほうの勝ち
2. 引き分けを生む先日手を非合法とする

の1.AND 2.ということですね。( 1. OR 2.ではなく。) 1.と2.はほぼ無関係なので個別に考察します。

1. は、チェスのスティールメイト(合法手がなくなった時点で引き分け)から着想を得たのだと思います。
しかし、駒が盤上から減っていくチェスとは違い、将棋では相手が全駒を狙わない限り、この状況にはまずなりません。

全駒と言うのは、(相手に屈辱を与えるために)相手の全部の駒を取ってしまうということですが、スティールメイトがあれば、全駒されて玉が動けなくなった時点で勝ちであります。いや、全駒を防止する意味なら、「手駒を一定以上蓄えた時点で負け」だとか、「合法手が一定数以下になったら勝ち」みたいなのも考えられます。「手駒を一定以上蓄えた時点で負け」は、わざと手駒を相手に押し付けないといけなくなって、新たなゲーム性を産み出すので、(世間に受け入れられるかどうかは別として)私は大変面白いルールだと思うのですが、いかがでしょうか。

2.は、そこまでに出現した局面と同一局面になった時点で、(連続王手の回避でなければ)その最後の指し手を指したほうが負け、(連続王手の回避であれば)相手の負けということだとして、要するに、引き分け防止のためのルールなのだと思いますが、以前に出現した局面かどうかを覚えておかないといけないので、お互いに手待ちするような局面になったときに、(互いに飛車を動かして手待ちをしているとして)出現した自分の飛車と相手の飛車の組み合わせをすべて覚えておかなければならず、トランプの神経衰弱のようなゲームになってしまいかねないので、現実的な運用面で困ります。

将棋のルールをどう変えれば「現実的な運用面で困らない引き分け防止が達成できるのか」というのは、実は難問だと思います。

いいアイデアをお持ちの方は、是非、今日の記事のコメント欄にでもコメントください。

しかしまあ、そのように入玉宣言ルールをトライルールに変更するだとか、打ち歩詰めを有効にするだとか、「手駒を一定以上蓄えた時点で負け」にするだとか、多少の変則ルールにしたところで、従来の定跡がアップデートを余儀なくされるほどではなく、将棋のゲーム性は大筋では変わらないと思います。

将棋ウォーズにせよ、将棋クエストにせよ、切れ負け(制限時間を使い切ると負け)の将棋だと、相手の持ち時間が少ないときにわざと手数を伸ばすような手順を選ぶことで勝ちに行く方法がありますが、だからと言ってそういう将棋の序中盤が通常の将棋と何か違うのかというとそういうことでもありません。

要するに、終盤付近に多少影響するようなルールの改定を行ったところで、序中盤に変化を及ぼすほどではなく、また五段の棋力のあった人がルール改定により、初段の棋力に落ちる、というようなことは現実的にはまず起こりえないということです。要するに、このようなルール改定をしても、将棋のゲーム性を損なうわけではなく、むしろ、ゲームとして面白くなるケースも多々あるということです。

ただ、今回の2.は運用面で問題があるので、これは良くないルールです。1.は、めったに起こりえないので、もう少し起こりえる状況に対するルールにしたほうが良いです。私の感想はそんなところです。

追記 : コメント欄でご指摘をいただきましたが、1.により、普通の詰みが詰みではなく(詰まされたほうの)勝ちになってしまうので、勝利を導くための2.のようです。

将棋から引き分けをなくすには?」への24件のフィードバック

  1. あだらぢいぎじはごごがぁー。
    さて、引き分けをなくす方法ですが、千日手を合法化してみたらいかがでしょうか。
    そこで、千日あれば何ができるか考えてみたのですが、ほぼなんでも用意できますよね。
    そこで、千日手を相手がやった場合、エクストラ駒を取得できるとかどうですか。
    まぁ、飛車とか用意できるとは思いますけど強すぎるのと歩だと2歩との兼ね合いがあるのでどこら辺がいいですかね。やっぱ金ですかね。
    千日間あれば金位用意できるでしょうと言う事で、エクストラ駒として金を手に加えるとかどうですか。
    物質でやるのは大変ですがコンピュータ上なら楽な仕事です。
    さていかがですか?

      • もらえるというか、イメージとしては王が命令して手配させる感じです。
        千日あれば金堀位はできそうだという勝手な蛇足です・・・。Orz

        • 千日手を繰り返した回数だけ駒が増えるので、可能性の上では無限に駒が必要になり、コンピュータ上での対局でない場合は、駒が用意できないという問題がありますね。

          あと、お互いに手待ちするときに、以前に出現した局面かどうかを判断するのが、人間の記憶力では難しいですね。

          • 枚数については81枚で盤面がオーバーフローするはずなので悪意が無ければ実現しないでしょう。多分。
            溢れた分はメモでカバーとか。

            まぁ、物理では難しいのは了承済みです。ホログラムにでもなることを夢見て。なんて。

  2. これ、質問者様の意図と違うものになっているのでは?
    1のルールを愚直に解釈するとステイルメイトの時だけでなく、王手されて且つ合法手が無くなってしまう「詰まされた局面」も勝ちということになります
    よって従来最もスタンダードな勝ち方であった「詰ますこと」が使えなくなります。では勝利条件は何か
    それが2ということになりそうです
    「詰ます」という明確な目標が無くなった先手と後手はとにかく合法手を何万手と指し続け、どの手を指しても千日手となる状態となって初めて合法手を失い勝ちになる。
    そういう状況を質問者様は想定したのでは
    これなら1と2が有機的に結びついて
    いて且つ面白いルールだと思います
    イメージとしてはハンカチ落としみたいなことになりそうですかね

    勘違いだったらすみません。長文失礼しました。

    • おお、なるほろ。1.だと普通の詰みの局面が詰みではなくなってしまうんですね。
      それで2.で決着をつけると…。よく練られてはいますが、2.で勝利に持っていくのは、現実的な運用が難しいですね。

      「歩以外の持ち駒の数が一定を超えた時点で勝ち」とかのほうが決着が早くついていいような気はしますが。
      あとは、トライルールをもっと過激に、「敵陣に玉が入った時点で勝ち」ぐらいにするだとか。

      • 将棋の局面は有限なので必ず決着は着くんでしょうが、この場合の千日手は普段見ている千日手とは程遠い、巨大な有限を埋め尽くすような手順もあり得るので神経衰弱どころじゃないですね。
        あと、1段目を自分駒が埋めていて、2段目に全部自分の歩が並び、盤面にほかの自分の駒がなく、持ち駒が無いか歩のみの状態になっても勝ちですね。

  3. 全然関係無いのですが、このサイト、最近まともに見られなくなってしまいました。
    普段Google Chromeを使ってますが、他のブラウザだと大丈夫だったのでどうもGoogle Chrome(のアプデ)のせいですかね。

  4. 現状から単に引き分け関係の規定が無くなるだけのパターンを考えると、最終的には体力勝負になるのか。

    • 現実の戦いでもそんなもんですよ。
      体力が、金だったり人だったりするんです。
      不毛なので引き分けが制定されるようになったんですね。
      談合というか、調和というか。

  5. 上のツイートをした者です。与太話だったのですが、公式サイトの記事に取り上げていただき感激です。ありがとうございます。

    上の方も指摘してくださっているのですが、私の元々の意図としては、将棋の勝ちと負けを入れ替えて負けを目指すルールにした際にどうなるかということでした。140文字での私の表現力が足りず失礼しました。
    とはいえ、本記事も大変興味深く読ませていただきました。

    私の興味としては、
    負けを目指すルールでは、
    ①自玉が詰み
    ②自玉がステイルメイト
    ③先日手により、遷移可能な局面が無い

    これらが「勝ち」局面になるはずですが、

    興味としては、

    A 負け側は1手でも長くしようとする仮定の下での完全解析の結果生成される指し手経路として、どのような物が生まれるのかということなのですが、

    まず、
    ①「勝ち側も最長経路を目指した時」には先日手にならないように出来る限り多くの局面を通っておくということになると思われますが、このとき先日手を同局面2回とすると、終局までの手数は合法局面の最大ハミルトンパスの長さ+α程度になるであろうということで、これが初手から到達可能な全合法局面数に対してどの程度の大きさになりそうかということが気になります。
    現行のルールでは同一局面4回目で先日手なので、ハミルトンパスを3回通るよりは複雑な経路になりそうですが…

    一方で、
    ②「勝ち側が最短経路を目指した時」には、比較的短い手数で終局すると考えられますが、このときの手数はどの程度か、人間の目に意図がわかりやすい戦略になるかということも気になります。詰まされることを目指すのか、自分の合法手を減らすことを目指すのか…etcです。

    (実際の将棋のルールの反転という点を重視し、片方の連続王手の先日手は合法、互いに連続王手の先日手は非合法とするルールの場合には、「自分が連続王手する先日手」の場合も勝ちになるので、これを目指すのが早い気がしますが…)

    さらには、
    B このルールで、完全解析出来ない現実のプレーヤーがどういった戦略を取ることになるか、つまり適した評価関数の形状と傾向はどのようになりそうか、そもそもまともな評価関数や方策関数を作る余地があるのか(終局までが長い等の理由で)ということも気になりました。
    Labyrinthus作者の方は、このルールでは互いに棒玉で出ていく方針になるのではないかと予想されていました。

    私にはとても深遠な話のように思えるのですが、将棋の数理に精通されているやねさんでしたら私に無い発想で簡潔な示唆を与えてくれるのではないかと思い質問した次第であります。

    • 質問難しすぎワロタw

      どういう終局図になるか私の予想だけで言うと、

      金金金とととととと

      のように金と「と金」を並べると、このラインを超えて相手の玉が移動することはなく、ここがバリケードになります。逆に言うと通常の詰みの局面に自ら誘導することは不可能となります。

      なので、双方がこのバリケードの内側で駒を動かすとして、このバリケードの内側を「サブ盤面」だと定義すると、サブ盤面内でなるべく少ない手順で同一の局面(サブ盤面)に辿り着けるほうが千日手に到達しやすいはずです。(千日手=非合法手=合法手が減る=勝ちという図式)

      そこでサブ盤面内でなるべく少ない手順で同一のサブ盤面になることが望まれます。これは言うまでもなく、サブ盤面内で動かせる駒がゼロ、すなわち空白升がない状態です。

      そこで、今度はサブ盤面の境界の駒で動かせる駒の合法手の数が少ないほうがいいのではないかということになります。この意味で、境界の駒は、歩・香・桂のような、一方向にしか移動できない駒が適していると考えられます。

      そこで、例えば、盤面上部で下図のような布陣で終局するというのが理想かと思います。

      と馬銀金玉金銀龍と
      香歩歩歩歩歩歩歩香
      □□桂□□□桂□□

      双方がこれを目指すので相手はこれを阻止しなければならないです。一見、手駒を渡したほうが相手の合法手が増えて得するように見えますが、上の布陣を前提として考えるなら、適当なところに駒打ちすれば、それは無いも等しいので、無視して考えることが出来るような気がします。(きちんと検証はしてません)

      そこで、上のような布陣を阻止するために、何か技を掛け合うような攻防になるのだと思いますが、このへんはよくわかりません。

      続きの考察は…誰か頼む!!

      • おお、終局パターンとして、「どの駒も動かせない」がありましたね。これを目指すとすると、意外と早く終局するのかも…?いやはや、ありがとうございます!私ももう少し考えてみます。

    • 勝ちの逆が全部負けですし、負けの逆が全部勝ちだと思います。
      混ぜて考えるのではなく、どっちかのパターンを詰めってって逆を考えるのが早いかと思います。
      基本的に負けを目指すルールだとチェスに似てくるんじゃないですかねー。
      駒を取ることが損になりますから取れる局面で無視するようになると思います。
      それで自分が経路を失うように袋小路を構築していくことになるかと思います。
      そのために相手を解放することを考えるんじゃないですかね。そしてコントロールする。
      パスが無い条件だと千日手は負けでしょうから、何らかの駒を動かすことを強制できるわけです。
      相手は自分が現状から見て負けるように差しさわりのないコマ回しをするでしょう。
      稲庭最強だと思いますよ。終わりませんが。

  6. ”相手の王よりも、奥に行ってはいけない” というルールだと、1)トライルールよりも早く決着が着く。(たぶん)
    2)王様を詰める事で決着がつく
    様に思えますが、いかがでしょうか。

    入玉模様だと、早く逃げ出した方が有利なので、将棋の中盤~終盤が影響を受けるかもしれませんが。

  7. 玉の安全度が絶対ならば全駒するのは簡単だけど、
    それがどうでもよくなった時に全駒できるかどうかの問題になりそうですよね
    全駒できれば相手の玉を動かせるようにしつつステイルメイトの形にできるので

  8. 千日手に関してです。お互いに仕掛ける気がないと、先後交代して指し直しても同じことです。

    人間対人間の場合、休まず指し直し続ければ、いつかはどっちかが時間切れ(寝てしまうので)して勝負がつきますが、COM相手だと勝ち目がありません。

    そこで、2局続けて千日手の場合は、千日手までの手数を先手側の得点とし、多い方が勝ちとしてはどうでしょうか。スポーツではこのようなシステムが多いと思います。

    2回続くのは今のところレアケースですが、将棋が進歩して千日手が増えると重要になるかもです。

  9. 玉同士がすれ違いできないようにする。
    玉同士が同じ段に入れない、というルールを見たことがあります。
    相入玉は無くなり、相当詰みやすくなると思います。
    (千日手を成立させた手を指したら負け、というのはありだと思います。持駒の数制限については『資本還元ルール』というのがありましたね。)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です