毎年、やねうら王プロジェクトでは、クリスマスシーズンになると何かしらのプレゼントを行ってきました。詰将棋問題集100万問であったり、やねうら王のメジャーバージョンのリリースであったり、教師用データセットの公開であったり。今年は、最新版であるやねうら王V8.00をクリスマスに公開しようと準備を粛々と進めてきました。
そんななか、とても心を抉られる記事を目にしました。羽生先生のインタビュー記事です。
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将棋をこよなく愛する開発者のみなさんは、将棋ソフトの開発で稼ごうと思っている人たちが少ないのです。 そのため、開発したプログラムを自分のスキルを披露する場として捉えて公開し、私たちが将棋AIを使うためのアプリも無償で公開してくれています。 |
いやいや。将棋をこよなく愛している(愛すべき)なのは、プロ棋士であるあなたたちであって、その将棋をこよなく愛しているあなたたちは、ノーギャラで将棋を指しているのですか?違いますよね。
私としては、将棋AIの開発自体は楽しいのでギャラが発生しようがしまいが続けていきたいとは思っていますが、かと言って「(エンジニアのあなたにとって)将棋AIの開発、とても楽しいやろ?楽しいからタダでええやろ?」と将棋AIのユーザーに言われちゃうと、それは違うんじゃないかなーと思います。それは将棋をこよなく愛するプロ棋士が将棋を指してギャラをもらっているのと同様の理屈です。本職のプログラマーはいかにプログラミングが好きであろうと、プログラムを書いたならギャラは発生すべきではあります。
どうして私がここまで金に汚いうるさいのかと言いますと、現代の将棋AIの開発にはとてもお金がかかるという事情があります。
やねうら王がお手本にしているStockfish(オープンソースなチェスのAI)では、探索部を1行変更するだけでも、10万局程度のテストを行い、regression(前のバージョンより悪化すること)が起きていないかを確かめています。将棋AIの開発においても私は同様のことをしたいのですが、計算資源が足りないので、私は1秒~4秒、3000局程度のテストで済ませています。この1回のテストに数千円かかっています。(PC購入代金と電気代をテストを実施した回数で割り算すると)
この対局回数が少ないと、わずかな強さの差を検知できません。現代の将棋AIの探索部は塵ほどのわずかな改良を積み重ねていくようなとても成熟した段階にあり、2023年現在だと3000回はもはや少なすぎて、そのわずかな差を掬い上げることができないのです。たった3000回しか対局テストを実施できないことに、その無力感に、私は胸が痛みます。
現代の上位の将棋AIの開発は、高い開発費用がかかるため、将棋AIで収益を上げられるならば(せめて赤字にならない程度に)それに越したことはありませんが、現状では難しくスポンサーに頼るしかないという状況です。
やねうら王チームのスポンサーであるAMD様からのサポートにより、⇑のように高価なPCをお借りできています。しかし、電気代や将来的にはGPUを複数台購入する必要があり、それに伴う費用も発生します。
このような状況を踏まえ、やねうら王プロジェクトは皆様からの支援を歓迎しています。寄付をいただいた方には、先行して最新版である「やねうら王V8.00」を配布しようと思っています。
やねうら王 GitHub (GitHub Sponsors準備中) ⇦ 近日中に用意します。まだGitHub Sponsorsの審査が通ってません ⇨ 2023/12/27 14:00 公開しました。
やねうら王 GitHub Sponsors
https://github.com/sponsors/yaneurao
GitHubのアカウントが必要になるので少し面倒かも…。
pixivFANBOXにもやねうら王の支援ページを用意しました。こちらの方が良い方はこちらからどうぞ。
FANBOX
https://yaneurao.fanbox.cc/
以上、サンタ逃亡のお知らせでした。
> 将棋をこよなく愛する開発者のみなさんは、将棋ソフトの開発で稼ごうと思っている人たちが少ないのです。
厳密には「将棋を」ではなくて「将棋ソフトを」でしょうね。
たとえ開発費がペイしなくても続けられる情熱は「愛」と言えるし、まさに趣味の世界。
初コメント失礼します。開発者の方の苦労は大変よくわかります。いち将棋ファンとして大変感謝しております。では今回は、「やねうら王V8.00」を有料配布、ということでしょうか。「先行して」と書かれていますが、先行は有料、後日に無料配布、ということでしょうか。少し意味が取れなかったため、ご回答頂けますと幸いです。
pixivFanboxみたいなものを想定しています。支援したいと思った人にサポーターなっていただく形ですね。サポーターになると定期的にニュースレターが届き、色んな情報がもらえます。そのなかにやねうら王V8.00も含まれている(かも)ということですね。やねうら王V8.00に関してはいずれ(無償で)公開する予定ではあります。(ここでお約束はできませんが)
ご回答ありがとうございます。確かにそういった最新AIにまつわる情報も有料級のものもあったりしますよね。今後、探索部だけでなく評価関数も有料配布みたいな流れになっていきそう…。(もっとも、将棋AIビジネスはHIROZが独占し始めてる感があるが…笑。 これからこの界隈はどうなっていくんでしょうか笑。)
別にギャラが発生しなくても良いんでないの。
ギャラが無いといけないのなら有償販売すれば良いだけだし。
売れるかどうかは別物。
プロ棋士は単なる職業なのだから将棋愛は別に必須ではないと思いますけど
2005年のBonanza公開以降、商用パッケージでの販売は成立しなくなりました。(販売しても開発費を回収できない)
ゆえにこの問題は、「販売すれば良い」と言う類の問題ではありません。
そうですかねえ。
羽生さんの言葉から私が受ける印象は、開発者の多くが無償でAIを公開してくれて来たおかげで、将棋界でのAIの広まりと将棋の進歩があることへの「感謝」の気持ちです。
>楽しいからタダでええやろ?
と言っているようには思いませんでした。
ここ近年の将棋AIの進歩は、それがOSSであるからです。無償で使えるからではありません。無償の部分だけを殊更強調し、喧伝する羽生先生の態度は界隈にとって迷惑で、将棋AIの発展の妨げになります。
>> やねうら王プロジェクトは皆様からの支援を歓迎しています。
どうやれば寄付できるのでしょうか?
GitHubのアカウントをお持ちであれば、本記事の末尾のリンクから支援できます。FANBOXは準備中です。明日ぐらいにはなんとか…。
好きでやっているものに対して、その好意/行為を当然のものとして反応されるともやっと来るものがありますよね。
mtmtさんの「藤井壮太はAIに勝てるか?」第5章などでは開発者の熱意によってコンピュータ将棋の発展が進んだという趣旨もあり、そういった世間的な意見が積み重なって間接的に今回の該当インタビューにつながっていった面もあるのかなと思いました。
支援の返礼でいただけるという最新版ですが、こちらはどのような形を想定されていますか。(実行ファイルだけなのか、ソースコードもあるのか、評価関数や定跡はあるのか等…)
そのへん、詳しくは別の記事で…。
「タダでええやろ」なんて誰も言ってないような…
羽生先生は直接的には言っていません。しかし無料であることを強調されており、それを喧伝しようとされています。OSSは単なる無料で公開されているソフトウェアではありません。OSSの理念に基づいて利用していただきたいです。
羽生先生のコメントについて、
「将棋AIの発達によって現代の将棋が大きく
発達した しかもそのソフトを無償で公開して頂いた
非常にありがたいことだ」
と言っていると思うのですが、この解釈について賛成されますか
何故「本当にありがたいですよね」という発言まで切り取られなかったのですか
読者に、貴方にとって都合のいいよう受け取ってもらうためですか
お答えいただけると幸いです
> この解釈について賛成されますか
しません。OSSとして公開されていることやOSSの理念を丸っと無視して「無償で」の部分をだけを殊更強調し、それを喧伝する羽生先生の態度はおかしいです。
> 何故「本当にありがたいですよね」という発言まで切り取られなかったのですか
そこは本質的な問題ではないからです。例えばデパートの試食品コーナーで思いっきり食べて「ここは無償で食べられるんです。本当にありがたいですね。」と言う人がいたら、どう思いますか?「本当にありがたい」まで含めても羽生先生の発言はおかしいのです。