将棋AIの大会、ついに先手勝率94%になる

去る7月10日、11日に電竜戦TSEC7が開催された。本大会の正式な名称は「第7回電竜戦TSECノー相居飛車指定局面と先手持ち時間0戦」である。本大会は二部構成で、第1部は指定局面戦(相居飛車以外)、第2部は先手が持ち時間0分、後手が10分で、双方とも1手ごとに2秒が加算されるルールである。

近年、将棋AIの大会では、先手の勝率が高すぎる。そのため、様々なハンデが考案されてきたが、今回の第2部は、先手の持ち時間を極限まで減らして、勝率がどうなるかという試みだ。

その結果について下記の投稿があった。

先手持ち時間ゼロにしたのですが、今回は上位陣4人で最大3回あたるスイス式なので、上位陣4人同士の対戦で集計したところ、持ち時間ゼロなのに先手15勝、後手1勝、先手勝率94%。
 え、これどうすんの。。。競技としての将棋は終わったかもしれない。。もう大会するのが難しいんだけど、、

先手15勝、後手1勝。先手勝率94%。

「そんなのデータをcherry pickしただけでしょ」(cherry pickとは、自分に都合の良いものや優れたものだけを都合よく選び取る行為のこと。ビジネスや研究の分野でよく使われる)と言われるかもしれない。16局の結果に過ぎないし、私もこの時点では、その考えに同意していた。

仮に将棋が先手必勝のゲームであるとしても、昨年から今年にかけて将棋AIはそこまで急激に強くなったわけではないので、昨年まで7,8割だった大会での先手勝率が突然94%にはなったりはしないはずである。ましてや、先手の持ち時間は0秒スタートである。

先手勝率がここまで高くなった理由の一つとして、後手の定跡選択の難しさが挙げられる。

以下は、floodgateの棋譜である。先手は7年前の将棋AIのQhapaq(WCSC29)、後手は私が放流したTuyouraOu202607である。TuyouraOuには、私の新ペタショック定跡(この対局時点で2000万局面)が搭載されている。

https://wdoor.c.u-tokyo.ac.jp/shogi/x/2026/07/18/wdoor+floodgate-300-10F+Qhapaq_WCSC29_8c+TuyouraOu202607+20260718190003.html

しかし、後手は定跡の指し手として中住まいを選択している。こんなので勝てるわけがない。「定跡をたくさん掘って、たくさんの変化を知っている自分の専門分野とも言える角換わりをどうして選択しないのか」と言いたくなるところであるが、角換わりをたくさん掘った結果、角換わりは後手にとってかなり不利な評価値になることが、定跡ツリー上で証明されてしまっているので、自ずと角換わりを避けるような定跡になっているのである。

ここには、先手必勝のゲームにおいて、後手定跡をどう構築するかという難しさが表れている。

そのような状況のなか、今回の電竜戦における水匠チームの定跡選択は見事であった。

大規模定跡を搭載していれば、定跡で中終盤まで進行するので、持ち時間が0でも関係がない。(定跡の局面では1手0秒で指し、1手ごとに2秒加算というフィッシャールールなので、定跡を抜けるころには、数分の持ち時間が貯まっているのが普通だからである)

しかし、後手が早い段階で定跡を抜けるような戦型を選択すれば別である。この作戦をやねうら王チーム相手に実行したのが今回の水匠チームだ。その結果、やねうら王チームは先手番なのに指し手が(持ち時間がないせいで)ボロボロで、負けてしまった。その棋譜が以下である。

https://denryu-sen.jp/denryusen/dr7_tsec7/dist/#/dr7tsec+buoy_blackbid600_tsec7p2-8-top_4_yaneurao_suishoo-600-2F+yaneurao+suishoo+20260712010640/92

先手の持ち時間が0であるなら、後手としては、なるべく早い段階で相手の定跡を抜けるような作戦をとるべきである。これ自体は、それほど難しい話ではない。手法の一例を挙げると、定跡ツリーのうち、ply(初期局面からの手数)が小さい局面の評価値に(後手から見て)加点しておき、ペタショック化(定跡DBのmin-max化)をすれば、相手を早い段階で定跡から外す手順を優先する後手定跡のできあがりである。

では、先手勝率94%という数字は、他の対局でも見られるのだろうか。自分の感覚でも確かめるため、floodgateの対局を集計してみた。

まず、floodgate(水門)の門番とも言えるSora_Ginkoの対局から。Sora_Ginkoは安定した強さを誇り、定跡に日々改良を加えている息の長いAIである。

floodgateにおけるSora_Ginkoの2026年の対局(現時点まで)を集計した。

先後別の戦績は、勝ち―引き分け―負けの順に以下の通りである。

先手番での負けが170局。後手番での負けが614局。負けた将棋のうち78.3%は後手番であった。同格の相手となら先手勝率は80%程度といったところだろうか。まあ、そんなものかもしれない。

私の超巨大定跡を搭載しているTuyouraOu202607はどうか。

先手番で負けたのは1局だけ。後手番で40局も負けている。同格の相手となら、先手勝率98%ぐらいある気がする。(電竜戦TSEC7の)94%どころじゃなかったな…。

これは、超巨大定跡を掘った結果、先手の定跡の完成度が高いわりに、後手の定跡がボロボロだから、実力のわりに負けているのかもしれない。

皆さんの目には、この結果はどう映るだろうか。

「先手必勝のゲームにおいて、後手定跡をどう構築するか」が今後の課題かもしれない。

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