Stockfishがもたらさなかったもの

昨年ぐらいからStockfishの改良点を取り込んでもほとんど強くならないというのが続いている。いまや、Stockfishによって将棋ソフトにもたらされるレーティング向上は年間R30にも満たないように思う。

平岡さんがSDT5の1日目に徹夜して(?)、探索部を改良された。(おそらくオーダリングまわりをStockfishの最新のものにキャッチアップ) しかし、あまり強くならなかったとのことである。

やねうら王のほうは、次の方法で探索パラメーターをチューニングしている。

過去のStockfishにあった、過去に有効か互角ぐらいであった枝刈り一つ一つ導入して、その枝刈りを入れたほうが強くなるかならないかを1スレ8秒 5000局で判定。

探索部に導入すべき枝刈りがすべて確定した時点で、探索パラメーター(40数パラメーターある)を別ファイルに書き出し、それぞれのパラメーターを 1) 少し増やす , 2)現状維持 , 3) 少し減らす の3択のなかからランダムに変更する。そして、基準ソフトと1スレ16秒 1万局対局させてみて、それぞれのパラメーターについて、1),2),3)のどちらに移動させると良いかを判断する。一言で言うとSGDの手動版である。これを5回ほど繰り返した。

枝刈り一つ一つの意味を考えれば、もっと新しい枝刈りを導入したり出来るのであろうが、そこまではしていない。一つ一つの枝刈りについて敢えて吟味せず、機械的にチューニングしたかったというのもあるし、このように機械的にチューニングしたもので、十分に工夫された既存の将棋ソフトの探索部(例えば、Ponanzaの探索部)に探索性能で勝てるというのを示したかったというのもある。

従来の将棋ソフト開発の秘伝みたいなものを一切排除したかった。過去の将棋ソフト開発者の書いた探索部は、Stockfishの前には、何の意味もなさないということを示したかった。過去の将棋ソフト開発者の偉業を自分のソースコードに引き継ぎたくなかった。それらは現代において何の意味もないことを示したかった。そして、SDT5の決勝日12チーム中9チームがやねうら王ライブラリ(本家含む)であるような現在において、それはひとまず達成できたと私は思っている。

私としては、この甘っちょろい考え方を誰かに否定して欲しい。「いやいや、やねさん、そうは言いますけど、ちゃんと枝刈りの性質を自分で考え抜き、これこれ、こういう枝刈りを導入したほうが強くなります/なりましたよ!」とそう諭して欲しい。技巧の出村さんや、読み太の塚本さん、Seleneの西海枝さんのように独自の探索部を書いている人達に叱られたい。小一時間、問い詰められたい。

それがいつになるかは私にはわからない。この夢が叶うまで、私はやねうら王の開発をやめない。

Stockfishがもたらさなかったもの」への2件のフィードバック

  1. ponanzaの探索部よりやねうら王の探索の方が上回っているんでしょうか?
    そもそもSDT5のponanzaがどれだけ強かったのか、評価関数の部分やDLでどれだけ底上げされてるのか全く見当もつかないのですが、やねさんはどう思っておられますか?

    • SDT5の2日目に、「前のもの(WCSC27)に対して6割ぐらい」とか横の席から聞こえてきてましたけども…。(ちらっとしか聞いてないので違ってる可能性も大いにあるので鵜呑みにはしないでください。)

      まあ、本当に6割だとしたら+R70程度なので今回のやねうら王(SDT5)の探索部+Apery(SDT5)の評価関数で完全に超えてる計算にはなります…。

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