先月末(30日)から、2日間、第5回将棋AI電竜戦本戦が開催された。正式名称は「文部科学大臣杯第5回世界将棋AI電竜戦本戦」と言う。ここでは、「第5回電竜戦」と書くことにする。
文部科学大臣杯第5回世界将棋AI電竜戦本戦
https://denryu-sen.jp/denryusen/dr5_production/dr1_live.php
第5回電竜戦には、私も「水匠チーム」と「Ryfamate with やねうら王」として参加していた。(本大会のルールとして、2チームから参加できる)
水匠チームは、たややんさんがShogiHomeを動かしているマシンで配信しながらであったため、時間切れ負けになったりして、何局か落としたようだ。(配信用に負荷をかけると何か問題が起きるようであった。) 結果、4位。
「Ryfamate with やねうら王」は、借りたクラウドのマシンがネットワーク環境が良くなかったのか、ディレイがひどく、こちらも2局、切れ負けになってしまった。(どちらも勝勢であった) おまけに定跡を前日の深夜に作成していたため、書き出し設定でミスをしてしまい、本戦当日は水匠定跡の有名な進行(どのチームも定跡として持っている)で4局も落としてしまった。(4局とも必敗の局面まで同じ進行) 結果、5位。
合計6局、無駄に落としてしまったが、6局とも勝っていれば優勝もあったのに残念ではある。
今回の電竜戦では、dlshogiがさらに強くなっているとのことだったので、dlshogiの優勝かと思っていたのだが、氷彗(ひすい)というソフトが優勝した。
氷彗は、近年彗星の如く大会に登場するようになった強豪ソフトなのだが、その開発者の正体は知られていなかった。氷彗はNNUEをかなり改造しているようで、開発の本気度が伝わってくるが、ここまで大改造できるからには、ぽっと出の開発者ではないことは明らかだ。しかし、私に近しい開発者ではなさそうである。と言うことは、間違いなく古参だなーと私は思っていた。
そして、今回の優勝を契機に、その正体が判明した。
電王トーナメントで「nozomi」というソフトで大活躍した、大森さんだった。「nozomi」以降、あまり開発をされている風ではなかったので、もう将棋AIの開発からは退いておられるのかと思っていたが、そうではなかった。そして、大森さんは、現在、HEROZで棋神アナリティクスの開発に従事されているようである。
氷彗について、簡単にその特徴を紹介しておかなければならない。
氷彗は、「HalfKA 1536-15-64」という評価関数アーキテクチャを採用している。これは、最新のStockfishのアーキテクチャを参考にしたもので、やねうら王ではまだサポートしていないアーキテクチャである。
大森さんは、電王トーナメントのころは、ご自分で探索部を書かれていたため、Stockfishのソースーコードもかなり深いところまで理解されていて、それが今回の優勝に繋がったのだと私は思う。
Stockfishの探索部は、ここ1年分ぐらいは、やねうら王に取り込んでもほとんど強くならなかった。(将棋のゲーム性に合ってない改良だから?) その代わり、StockfishはNNUE評価関数にかなりの改良が入っており、それをうまく取り入れた大森さんの大勝利と言ったところである。
今回dlshogiは準優勝と奮闘していた。つまり、1位、2位がHEROZということになってしまった。
dlshogiに負けるのは、(学習に使える)計算資源に大きな差があるから仕方がないとある意味諦めもつくのだが、氷彗に負けるのは、そのような言い訳が許されないだろう。
氷彗の優勝で、他の開発者も「HalfKA 1536-15-64」について調べ始めたような状況である。
次回のWCSC(世界コンピュータ将棋選手権)では、上位チームは激しい争いになりそうだ。