やねうら王、実は弱かった…

去年のやねうら王、実は弱かった。知らなかったのだが、さきほど思い知った。非常に弱かった。

非常に弱かったなどと書くとこれまでに対局してくださった(そして負けた)プロ棋士の先生に失礼だという気もするが、事実は事実として記録しておく必要があると思うので、ざっと書く。

永瀬拓矢六段 vs Selene

永瀬拓矢六段はSeleneとの練習対局において1,2割(?)しか勝てていないと電王戦の局後に語っていた。

一方、稲葉陽七段は、やねうら王には勝ち越していたはず。やねうら王の序盤はそれほどパターンがなかったので、同じような展開になっていたというのもあるのかも知れないが。

永瀬拓矢六段と稲葉陽七段の棋力にそれほど差があるとも思えないので、これはやねうら王がSeleneより弱いことを意味する。

Selene vs Apery(電王戦版)

Selene対Apery(昨年の電王戦版)は、MultiPV=1(通常の設定)においては互角ぐらいと西海枝さんに聞いた気がする。(当初、「78%勝ち越し」とのことであったが、MultiPVありで対局していたので実験をやりなおしたということだった。)

ということは、昨年の電王トーナメントの時点では、Apery≒Selene > やねうら王 だという図式になる。

一昨年のやねうら王

さらに言えば、一昨年の電王トーナメントの時点では、やねうら王は、昨年のものよりR200〜300ぐらい弱かった。だから、本当に弱かったわけで、一昨年のものなどやねうら王は練習対局では1,2割ぐらいしか勝てていなかったのではないかと思う。その1,2割を本番で引いたところがやねうら王の強運なのであるが、対局された佐藤紳哉六段にしても「これだけ弱ければ、余裕で勝てる。格好良く決める!」という油断はあったのだろう。

MultiPVによるAperyの弱体化

さて、Aperyの話に戻す。電王戦時はAperyは(序盤をばらけさせるために)MultiPVにしてあったので弱体化していた。Seleneの実験の話を信用するなら、勝率50%→勝率78%なわけで、その差はR220程度である。そう考えるとわりと他の事象と色々辻褄が合う。

2015年6月、千田翔太とAperyの練習対局、持ち時間1時間で50局以上行って、千田はAperyに対しての勝率が「2割ちょうど」と述べている。

https://ja.wikipedia.org/wiki/コンピュータ将棋

千田翔太五段、永瀬拓矢六段と稲葉陽七段の棋力にそれほどの差はないと仮定すると、Selene≒Aperyに対してプロ棋士が勝率2割というのはここまでの計算と合致する。

昨年のやねうら王 vs Apery(WCSC25)

そこで、次に昨年のやねうら王とWCSC25版のAperyとを対局させてみた。(Aperyが電王戦版とWCSC25とでどれくらいの違いがあるのかは知らない。)

持ち時間5分〜7分 + 1手3秒。切れ負けにしていないのは、Aperyは時間切れになると思考(探索)をせずに最初に見つけた(最初に生成された)合法手を指すようになっているからで、これが理由によりAperyが自滅するため正確な計測が出来なくなるからである。

あまり対局数は多くないが、どうも昨年のやねうら王は3,4割ぐらいしか勝てないようである。R100程度の差があると見ていいだろう。Apery自体は電王戦版→WCSC25版でR100も上がっていないと思うので、そう考えると昨年の電王トーナメントの段階ではAperyに4割程度しか勝てなかったのだと思う。昨年の電王トーナメントでの直接対決は、やねうら王は負けるべくして負けたのだ。

今年のApery

平岡さんによるとWCSC25版からさらに強くなっているそうである。正確なことはここには書かないが。

今年のやねうら王

正直、昨年のやねうら王とApery(WCSC25版)との対局結果はショックである。「ああ、Apery、こんなに強かったのか」と。昨年からR200ぐらいは上げないと今年のAperyと並びすらしない。欲を言えばR300〜400ぐらい上げたい。

評価関数と学習メソッドの(小手先の)改良だけではこの差は到底埋まらない。探索部も大改造する。電王トーナメントまでにあと1週間ほどしか時間はないが、このタイミングでAperyとの差を正確に知れたことはとても幸運であった。Aperyを公開してくれている平岡さんには感謝してやまない。

追記

続報が入ってきました!

やねうら王、実は弱かった…」への19件のフィードバック

  1. 千田翔太五段、永瀬拓矢六段と稲葉陽七段の棋力を基準として…

    昨年のSelene≒Aperyが⊿R = 250、昨年のやねうら王がそれから-100とすると、⊿R = 150で逆に稲葉陽七段に7割方勝ち越してしまうような気が…

    まあラフな試算ですし、レーティングが間隔尺度という根拠もないですよね。

    ともかく、やねさんのやる気スイッチが入ったようで楽しみにしています!

  2. > やねうら王の序盤はそれほどパターンがなかったので、
    > 同じような展開になっていたというのもあるのかも知れ
    > ないが。
    あ、序盤のパターン、aka研究の効果があったかもしれないですね。失礼しました。

    ちなみに、電王戦版→WCSC25版で⊿R = 150ほど向上しているようです。

    http://d.hatena.ne.jp/hiraoka64/20150522/1432309293

    Aperyの実行ファイルは、第25回世界コンピュータ将棋選手権バージョンも公開しています。

    電王戦FINALバージョンには7割くらい勝つ(対人の為の設定を省いて7割なので、そのままだともっと差が付くかも知れません。

  3. >平岡さんによるとWCSC25版からさらに強くなっているそうである。

    Twitterみる限り強くなってるみたいですね。

    大樹の枝、結構強いと思う。
    21:49 – 2015年11月9日

    先月と今月ではソフト自体も結構変わってて、何をPRしているのかって感じもする
    20:18 – 2015年11月9日

    大樹の枝の優勝ワンチャンある。
    2:34 – 2015年11月6日

    あんまり期待してなくてお金勿体無いからやめとこうかなって思ってた学習の方が強くなっている。予想当たらん。
    8:03 – 2015年10月31日

    いくら僕がネガティブにしていてもAperyは着実に強くなっている。
    0:53 – 2015年10月31日

    自己対局勝率の三すくみの状況が表れて泣きそう。評価関数ではあんまり起きなかったのになぁ。
    20:21 – 2015年10月25日

    6割から少し下がってきた。。まあ5割にはならんでしょう。
    18:52 – 2015年10月25日

    1イテレーションで6割勝ちっぽい。しばらくイテレーション回して様子見。
    18:36 – 2015年10月25日

    ちょいNPS上がった。
    23:26 – 2015年10月21日

    少しだけだけど強くなってた。
    7:36 – 2015年10月20日

    うーん、でもやっぱ何故か途中から五割に近付く力が働いている。いつものことだけれど。
    2:29 – 2015年10月20日

    ちょっと強くなったかも(>_<)
    1:53 – 2015年10月20日

    P.S.
    やねうら王の新しい名前メスゴリラだと思ってました。

  4. て、天才だからきっとapreyやponanzaに勝てる超やねうら王が出来上がるんですよね(震声)

    しかしapreyとの差がそこまであるとは思えませんでしたが…恐ろしや…

  5. 永瀬六段はこんな発言もしています。
    http://i2chmeijin.blog.fc2.com/blog-entry-2004.html

    永瀬六段は、後手番での練習将棋を、稲葉七段は先手番での練習将棋をしたでしょうから、↑の発言が正しいとすれば、永瀬六段の先手でのソフト勝率:1+3=4割となり、
    やねうら王ともそこまで変わらないのかなと思います。

    やねんざメソッドがボナメソ以来のブレイクスルーになることを期待しております。

  6. 電王トナメのPVがまだアップされてない。
    ドワンゴのやる気をうたがってしまいそう、、、。

  7. 30コア、60スレッドマシン、羨ましい。。。
    高校生がつくばのスパコンで2時間36分で解いたというニュースに触発されて 5x5の魔方陣を解くプログラムを作ったのですが、このマシンだと30秒台で終了しそう。

    猫が、やねンザメソッドの成功を祈っているのでしょうか。(猫の手、ならぬ、猫の祈りも借りる やねンザメソッドですね。)

    • 壁紙を猫にしているのはリモートPCなのでどれがどのPCなのかがわからなくなるのを避けるためです。この猫がmasterで、こっちの猫がslave1、みたいな…。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です