スーパーテラショック定跡、元奨励会三段に見てもらった

電竜戦でも用いたスーパーテラショック定跡、GeForce RTX 3090を丸一ヶ月ほど回して作成し、150万局面も搭載している大作である。先日行われた第二回電竜戦では「やねうら王」の定跡としてこれをそのまま用いた。やねうら王は惜しくも予選敗退となったが、内容的には、そこまで悪くない。というのも、

・10戦中6回後手番を引いてしまった。
・先手番では負けなし。
・定跡抜けた局面ではいずれもほぼ互角。(後手番は少し怪しい局面もあった)

という状況だったからだ。

反省としては、AWSでc5.metalを借りたものの、これは 96 vCPU(≒96スレッド)の、3年前のスペックで型落ち感が否めなかった。いまどきご家庭のパソコンであれ、(将棋ソフト開発者ならば)Ryzen Threadripper 3990Xなど64コア128スレッドが主流なのに、こんなところでハンデを背負っていたのでは勝てるものも勝てない。

本大会、私はネットワークの遅延が少ない方がいいかと思い、AWSは東京リージョンで借りたのだが、実はオレゴンリージョンだと、最近128 vCPUのインスタンスが借りれるようになっていたのだそうだ。なんでも最新のインスタンスはまずオレゴンリージョンに来るんだそうだ。そんな大事なこと、早く教えてくださいよ~。(泣)

AWS情報弱者の弱みが思いっきり露呈してしまった。

肝心のスーパーテラショック定跡なのだが、色んな人に渡して調べてもらった。

例えば、たぬきシリーズの野田さん。今回はたぬきも、新しい定跡生成手法で定跡を自動的に生成しているのだそうだが、今回のたぬき(出場ソフト名「 タヌキの為に鐘は鳴る」)の定跡と勝負した。定跡を抜けた局面で自己対局による引き継ぎを行う。スーパーテラショック定跡側は、評価値0(千日手)のスコアがついている指し手がわりと多いので、これで定跡を抜ける局面はバラけるようである。

結果としては、スーパーテラショック定跡側が+R30ほど上回っているということであった。スーパーテラショック定跡の優秀性が垣間見えた。

あとは、元奨励会三段のあらきっぺさんにも見ていただいた。

あらきっぺ
https://arakippe.com/

あらきっぺさんは、
現代将棋を読み解く7つの理論』 や『終盤のストラテジー』の著者としても有名である。特に前者に対しては、先日、第33回将棋ペンクラブ大賞を受賞された。

あらきっぺさんには、スーパーテラショック定跡を2週間ぐらい掘った時点でも一度見ていただいており、見ていただくのはこれが二度目である。詳細レビューをいただいたので、以下に貼り付けておく。後手番はまだ掘り足りず、少し怪しいところがあるようだが、総合的には高い評価をいただけた。

それに、前回怪しかった変化も自動的に改善されているようである。完全放置で、外部棋譜も一切用いず、ただ時間をかけて掘り続けるだけでどんどん定跡の精度が高まっていくことが証明された。このまま、あと3,4ヶ月掘り続けようと思っている。(それで700万局面ぐらいまで掘る予定。それ以上はPCのメモリが足りないのでどうするか考え中。)

おそらく、数億局面ぐらい掘れば、相掛かりに何らかの結論を出せる可能性はある。いずれはクラウドファンディングでお金を集めるなどして10億局面ほど掘ってみたい。


スーパーテラショック定跡のフィードバックです。(2回目)

今回は、簡単で良いとのことでしたが、以前よりも深堀りなさっているので、さらっとはまとめられませんでした笑

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【角換わり】

  1. 初手から☗26歩☖84歩☗76歩☖85歩☗77角☖34歩☗68銀☖32金▲78金と進んだとき、△9四歩が最善と示していることが凄いです。かなり専門的になりますが、平凡な△77角成から角換わりを選ぶよりも、先手の作戦を限定させる意味があります。前回はこの手が第一候補に上がっていなかったかと思うので、この時点で大いなる進歩を感じます。
  1. 腰掛け銀に組み合う進行で、ちょっと危うい部分があったので指摘いたします。

// やね補足。スクリーンショットの「BookDepthLimit is …」より下の部分がスーパーテラショック定跡の返した指し手。そこより上は水匠が思考して返した指し手。

画像に示したように、▲68玉△54銀の進行が第一候補に入っておりますが、その局面は▲45歩と仕掛けて後手が倒れる変化です。この進行が第一候補として入ってしまうのは、大いに危険かと思われます。

【相掛かり系】

  1. 当たり前のように出現するこの局面で、すでに+192を出していることに驚きを感じました。また、逆サイドの△94歩に関しても、同様の評価なのですね。

NNUE系のソフトだと、おそらく100~150くらい低い評価値が出るはずです。こういった数字を見ると、先日の電竜戦でDL勢が躍進したことが頷けます。

  1. 全般的に、序盤の手順に関しましては、他のDL系ソフトが指す序盤と相違が無い印象を受けます。ただ、評価値はなかなか興味深いですね。後手側が最善手を選ぶと、先手が良くできない評価値が出ていることが意外です。なお、評価値0は千日手ということですかね? だとすると、ずいぶん早い段階から千日手になることを想定していることが窺えます。

【矢倉】

  1. 角換わりや相掛かりと比較すると、先手の評価値が悪いですね。これはNNUE系も同様で、この辺りは頷けるものがあります。前回からは特に大きな違いがないように感じました。

【雁木】

  1. 先手番が雁木を志向すると、画像のように相雁木に持ち込まれて千日手模様になりますね。

この評価はNNUE系とも同様ですし、人間の感覚からしても納得ができる評価です。

  1. 後手が雁木を志向した場合、先手は角道を止めずに急戦志向で主導権を取りに行く指し方を評価しています。これも人間の感覚では、頷ける部分です。

// やね補足。表示されている「評価値」は先手から見た評価値。14歩で 90 、 43銀が 120なので後手にとっては14歩の方が良い指し手だとスーパーテラショック定跡は言っている。

なお、このとき後手は△43銀で雁木の骨格を作る手を評価していないことが面白いと感じました。例によって、端歩の優先を第一候補に上げています。

どうもDL系は、早々に形が決まってしまう手を嫌がる傾向があるように感じるので、それを踏まえると納得感がある選択にも思えます。

【雑感】

  1. 前回同様、相掛かりの将棋が最も精度が高い印象です。また、一番NNUE系の評価と乖離が大きいことも実感しました。一般論として、DL系とNNUE系ではDL系の方が序盤が巧いとされていますが、もしかすると、ただ単に相掛かりにおいてはDL系の方が巧み、という可能性もあるかもしれないなと感じました。
  1. 後手がきちんと指せば、大体、千日手になってしまうことが意外でした。角換わりや相雁木は千日手が起こりやすい戦型ですが、相掛かりでも同様の評価になりつつあるのが驚きです。しかし、人間の感覚だと、相掛かりで千日手に落ち着くのはダウトという印象も受けます。無論、人間の感覚が当てにならないことは、今まで将棋ソフトによって何度も証明されてきた話ではありますが、相掛かりは最も膠着状態になりにくい戦型(お互いの大駒の利きが敵陣に直射しやすいから)なので、これはどうなのだろう…とも思いました。

以上になります。なお余談ですが、先手が三間飛車を選んだ際に、後手が異様に早い段階で銀冠を作りに行くのが斬新で面白かったですね。ちょっと人類には早すぎます笑

それでは、次回の定跡ファイルも楽しみにしております!

7 thoughts on “スーパーテラショック定跡、元奨励会三段に見てもらった

  1. 二人零和有限確定完全情報猫ゲームは、先手必勝、後手必勝、引き分けのいずれかですが、将棋は引き分けの可能性があるって感じですか?

    • 初期局面で76歩と34歩の評価値は、+20です。掘るごとに0に漸近していきますが、まだ0にはなってないので、先手のアド(アドバンテージ)はいまのところあるのでしょう。

      後手は全力で千日手(評価値0)を狙い、先手はそれを回避できるかという戦いになっています。

      掘っていくなかで、わりと簡単に千日手にできることもわかってきていますが、先手のアドは消失してないのでこれからが楽しみです。

      • この形になったら千日手局面集みたいなのが出来上がって、先後入れ替え指し直しは省略して、そこに到達したら強制的に勝敗が付くとか、そうなっちゃうんですかねぇ?w

        • スーパーテラショック定跡、初期局面付近は最善手でも0の評価値がついているものが多いですね。将棋、千日手回避するのめっちゃムズいのでは…。

  2. 矢倉というか5手目77銀か66歩は評価値プラスですか?矢倉は先手勝ちの可能性はまだありますか?
    (後手が誘導する作戦を除き)角換わりと相掛かり以外に先手勝ちの可能性のある戦法は無い様子なのでしょうか?

    • 現在(150万局面)時点では、5手目77銀が-6、66歩が-3と見てます。微妙に悪いと見てますね。しかし矢倉周辺はまだ全然掘れてないので怪しいもんです。

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