WCSC(世界コンピュータ将棋選手権)で引き分けの回数を集計した人がいて、その結果を教えてもらった。やねうら王は通算で2位なのだそうだ。前回とか今回とかの集計結果ではなく、WCSC第1回から第32回までの通算で2位。
集計結果はこうなる。
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1位8回Apery 2位7回やねうら王、名人コブラ、HIT将棋 5位6回Qhapaq、井上将棋、なり金将棋、矢埜将棋、白ビール 10位5回山田将棋、謎的電棋、竜の卵、まったりゆうちゃん、なのは、稲庭将棋、Ryfamate、elmoです。 |
目を疑った。WCSC、やねうら王は3回しか出場していない。しかも前回と今回はシードなので1次予選(1日目)は免除である。しかし、数えてみると本当にやねうら王は歴代2位であるようだ。
もしかして、他のソフトは思ったほど千日手になっていないのだろうか?
例えば、ランダムプレイヤー同士の対局では天文学的な確率でしか千日手にはならない。強いプレイヤーになるほど千日手は増える。だから、WCSCも昔は千日手が少なかった。(ソフトが全体的に弱かったので) …というのは、半分正解で、半分間違いのようである。
KomaFontさんによる集計結果がこれである。
// このグラフは、二次予選の集計結果である。
// また、DRAW 1は千日手と最大手数引き分けの合計が1回のチーム、DRAW 2は2回のチーム、という意味である。
WCSC28以降、千日手が急激に増えている。逆に言えば、そこまでは千日手はほとんどない。ソフトが弱かったからと言うとそうなのかも知れないが、それだと、WCSC28から急激に増えた理由は説明がつかない。
WCSC28から急激に増えた理由は、WCSC27の優勝ソフトを思い起こせば、察しがつく。WCSC27の優勝ソフトは、elmoである。鳴り物入りで登場したPonanza Chainerを見事下したのがelmoであった。WCSC27のelmoは、機械学習の時に勝敗も用いていた。このことはそれ以降のソフトに多大なる影響を及ぼした。
elmoがもたらしたオーパーツについて : https://yaneuraou.yaneu.com/2017/05/23/ooparts-brought-by-elmo/
教師局面の勝敗項を用いることにより、終盤が劇的に強化され、入玉がうまくなったことは否めないだろう。それまで、コンピュータ将棋は、「終盤が鬼強いのに入玉模様になるとアマチュア初段レベル」と言われていたのたが、このあたりを境にして「入玉もアマチュア四段ぐらいはある」「入玉模様の将棋もプロ棋士レベルになってきた」と世間の評価が好転していった。
そんなわけで、近年のソフトは強くなったから千日手が増えたというのは間違いではなさそうだが、そのきっかけはelmoではないかとのことであった。
2022/05/30 22:15 追記
WCSCで入玉宣言勝ちをした最初のソフトは、WCSC25(2015年)のSeleneだそうです。
Selene、史上初の入玉宣言法による勝利を達成。世界コンピュータ将棋選手権 : https://shogi1.com/selene-nyugyokusengen/
Seleneは方策勾配法を使った独自の学習部で、当時私が話を聞いた感じでは勝敗項を使ってはいたはず。(ただし、学習効率がすごく悪そうだったので(学習に半年かかるとか何とか)、やねうら王では真似をしなかった覚えが。2015年ごろの話。)
また、WCSC27ではelmoが入玉宣言勝ちを果たしているので、やはりelmo式の導入によってその後の将棋ソフトで入玉模様の局面に強くなったのは間違いなさそうです。