将棋AIの大会をめちゃめちゃにできる定跡が発見された

将棋AIの大会をめちゃめちゃにできる、とんでもない定跡が発見された。次図の局面である。

ご覧の通り、現代の角換わりの入口の局面である。普通は先手は69玉~79玉と一手あえて手損して、後手に余分に1手指させることで形を悪くさせて仕掛けのチャンスを狙うのであるが、本譜は、その69玉を省略し、手損せずに79玉~45桂と跳ねた局面である。

この局面の何が問題なのかと言うと、たややんさんの自動定跡生成スクリプトによって、この局面の結論が出てしまったっぽいのである。

具体的な変化については、たややんさんの動画にあるので、そちらをご覧いただきたい。

結論は、先後、双方が最善を尽くすと千日手ではないかということである。

それで、これが本当なのか、私の新ペタショック定跡でも、上図の局面を課題局面として登録して、ここからを掘っているところである。そこまで変化は広くなさそうではあるものの、私のほうは、たややんさんの定跡スクリプトより掘る範囲が広いので、いまだ結論までは到達できていない。

なぜ定跡スクリプトにそのような性質の違いがあるのかについては、長くなりそうなのでまたの機会に書く。

それで、この局面の結論が千日手だとしたら何がまずいのかについて説明する。

この局面は、角換わりの入口あたりの局面なので、先手をもってこの局面に誘導するのは比較的容易いのである。そして、この仕掛け以降、変化がそこまで広くないので、事前に調べ尽くしておけば、先手として(相手がどれだけ強いソフトであっても)千日手に持っていくことはできそうなのである。相手が途中で応手を間違えてくれれば、先手勝ちまでもある。

そして、その定跡がたややんさんによって公開されてしまった。

この状況だと、将棋AIの大会で、中堅ぐらいのチームが結託して、この定跡を用いることによって、上位チームに対して必ず引き分けることができるのである。そのように結託して狙い撃ちされてしまうと、上位チームは確実に順位を落としてしまうのである。

結託しないにしても、「もう優勝の目はないので、強豪チームに一矢報いるために、先手番でこの定跡を使う」みたいなケースも考えられる。そうすると、それだけで強豪チームは引き分けてしまうのである。強豪チームとしては、たまったもんではない。

そんなわけで、この定跡は非常にヤバイのである。先手番なら高い確率で誘導できる局面での結論が出てしまったのがヤバイのである。

dlshogiの山岡さんは、最初は静観されてたが、いよいよ事のヤバさが伝わったのか、「この局面だけは結論を出しておかないとまずそう。dlshogiもこの局面からの定跡を掘ることにします。また、dlshogiは定跡の千日手の評価値を変えて出力が可能なので千日手の結論がでていれば(千日手は負けの評価値にすればこの変化自体を)回避できます。」とのことであった。

たややんさんの定跡スクリプトが出した結論は、ついに、山岡さんをも動かしたのである。

将棋AIの大会をめちゃめちゃにできる定跡が発見された」への11件のフィードバック

  1. 強豪イジメを防ぐには、予選でも先手後手で2対局やって、引き分けたらもう片方
    の試合を勝ち点2倍…とか?

    • 大会ルールの当初の目的が理解できてなくてすみませんが、千日手は先後入れ替えて再対局、それでも千日手なら引き分けなどルール変更で対策できそうですがダメなんですかね。。

      • 近年の将棋AIの大会は、参加者がかなり増えていて、かつ、(WCSCだと)現地参加が難しい人からの「遅めに開始、早めに終了して欲しい」という圧があり、それでもなるべく対局数は増やさないと実力が反映されないという批判から、対局の持ち時間をギリギリまで減らしている状況なので、千日手で再対局する案は実現困難なんです。

  2. 大会ルールで千日手は後手勝ち、または後手0.7勝ぐらいの扱いにすれば良いのでは

    • 電竜戦は、現状、先手千日手0.4勝、後手千日手0.6勝となってはいます。これを先手0.3勝、後手0.7勝としても中堅チームが結託して優勝候補のチームを蹴落とすには十分ですね。

      千日手を後手勝ちにすれば、その問題はなくなりますが、将棋のゲーム性が大きく変わり、影響が甚大です。

  3. やり尽くされてると思いますが、そもそも先手に66歩を突かせない、後手が先に44歩を突き65桂を跳ねる、ということはできないのでしょうか

    • 角換わり腰掛銀37手目基本図から本譜の進行までは先手が誘導しようと思うと後手は回避すると簡単に悪くなるので、基本図までに回避できるかですね..。

      先手に66歩を突かせない = 後手が早めに65歩と6筋の位を取る のは、有力ながら先手から66歩の反撃があり、成立しないっぽいです。
      後手からの早めの(44歩からの)65桂はほとんどの形で成立しないっぽいです。

      ただ、後手が多少の不利を甘受するなら、そういう形もありなのかなと…。

  4. 上位蹴落としを対策する問題、コメントにあったような大会ルールの変更という点では、プロ野球みたいに、 引き分けをカウントせずに勝率が高い方が順位が高いルールならどうなりますか?

    • スイス式は「勝ち点」をベースに、似た成績の者同士を次ラウンドで当てる方式なので、引き分けを無効試合にしてしまうことはスイス式とは相容れないです。

      スイス式ではなく、勝率ベースで勝者を決めて引き分けをノーカウントにすることはできますが、この場合、(総当たりではない場合は)運良く弱い相手と当たり勝率を稼いだチームが優勝してしまいかねないです。(勝率の高いもの同士を当てるようなマッチングにすればいいと思われるかも知れませんが、引き分けがノーカウントだと、ずっと引き分けの場合、勝率を計算するときの分母が0ですので勝率が出せませんので…。)

  5. たややんさんが公表・公開してくれているのは、将棋界の発展に貢献していて素晴らしい神のような存在に感じています。

    やねうら王さんは世界最強を目指されてるとの事ですが、それだったら、この局面の1手前、3手前を掘って、はめ倒すくらいの事をしてもらいたいです。

    近年、角換わり定跡が人間界、AI界どちらでも掘られまくり、アスファルトの地面のように硬い道になっているのは知っていますが、更にドリルで掘り起こし新しい道を作り出してもらいたいです。

    将棋AIの更なる発展、戦い、ドラマを楽しみにしています。

    • > この局面の1手前、3手前を掘って、

      この局面の1手前、3手前は各チーム猛烈に定跡を掘っております。(角換わり腰掛銀の重要変化なので)

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