ここ最近になって、将棋は、先手必勝のゲームであると考える将棋AI開発者が増えてきた。私もその一人であるが、いま将棋AIの世界で先手の勝率はどれくらいになっているのだろうか。今回は、最近の流れを追いかけてみる。
今年前半に行われたWCSC33(第33回世界コンピュータ将棋選手権)の数字をそれまでのものと比較してみよう。
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2023年決勝 ──────────────────────────── 棋譜数 : 28 先手勝ち : 19 宣言勝ちを含む 後手勝ち : 9 宣言勝ちを含む 先手宣言勝ち : 1 後手宣言勝ち : 1 千日手 : 0 持将棋 : 0 中断 : 0 320手 先手勝率 : 0.679 19勝9敗 後手勝率 : 0.321 平均手数 : 176.250 千日手を含む 平均手数 : 176.250 千日手を除く ──────────────────────────── 第33回世界コンピュータ将棋選手権の戦型分析 (将棋プログラミング) |
WCSC33(決勝)が先手勝率67.9%。同ブログによるとWCSC32で58%、WCSC31で56%、WCSC29で53%だそうで、ここ2、3年の急激な先手勝率の伸びは凄まじい。
ここ1年で何が起きたのかと言うと定跡が大幅に整備されたことがあると思う。いまからこの定跡の話を書き出すとこの記事が書き終わらなくなってしまうので、これに関しては別の機会に譲りたい。
WCSC33は今年の前半に開催された大会で、そのあとも定跡の整備は進み、おそらくいま2023年12月現在だと先手勝率70%程度はあると思う。勝率7割とは、Elo Ratingで言うとR140程度である。将棋倶楽部24や将棋ウォーズの段位で言うとR200で1段の差だから、後手は0.7段のハンデを背負っていると言うことだ。
そこで、今月の初めに行われた第4回世界電竜戦では、先手の持ち時間を後手の半分にするという施策が行われた。(正確に言うと先手5分+1手2秒加算、後手10分+1手2秒加算なので、厳密に半分ではないが、まあ、おおよそ半分。)
将棋AIの世界は、持ち時間が2倍で、レーティングが+R100~R200上がると言われている。(自己対局だとR200ぐらい上がっているように見えるが異種ソフトとの対局だと+R100程度)
そう考えると持ち時間半分だと、-R100のハンデなのだが、実戦だとponder(相手の手番中にその先の局面を考える)が許されているので、実際は、-R40程度のハンデに留まるんじゃないかと思う。
つまり、この条件でもR140(先手の有利さ) – R40(持ち時間によるハンデ) = R100(勝率64.01%)だけ先手は有利ではないかと言うのが私の考えであった。
実際、第4回世界電竜戦(決勝A級リーグ)では、以下のように勝率65%程度のようである。
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昨今話題の先手勝率であるが、先手視点90局として集計すると55勝27敗8分となる。 引き分け0.4点として一局平均の勝ち点(勝率)が0.646(64.6%)となる。 ちなみに引き分け0.5勝換算すると平均65.5%となる。 第4回電竜戦本戦 (48's diary) |
決勝に進むチームは定跡DBを活用していて、定跡の局面では思考時間を消費しないので、あまり持ち時間が切迫しないというのもある。実際、優勝した弊チーム(水匠)は、1手当たりの考慮時間の平均タイムが全チーム中、最短であったそうだ。
では、近年の将棋AIの先手勝率の高さのうち、将棋AI自体が強くなった分と定跡によって底上げされた分と、それぞれどのような割合なのか?これについても興味が尽きないが、長くなるので、この話も別の記事で書くことにする。今回はここまで。
やねさんチーム優勝おめでとうございます!!すごいです。そこにシビれる!あこがれるゥ!
>> 先手勝率70%程度はあると思う。
これって角落ちくらいですか?
角落ちは人間の有段者の対局だと3段差(R600)ぐらいの差ですな。香落ちでも、2段差(R400)。R140は香落ちの1/3ぐらいのハンデ。(余計に分かりづらい?)
将棋の結論は先手必勝か引き分けだって思っている人がほとんどだと思いますが、やねさんは後手必勝があり得ないと「証明」するのは将来可能になると思いますか?
そのためには先手が序盤に千日手を「強制」することができる定跡を発見すればいいわけですが。。ここで「強制」の意味は(オセロのように厳密にやるのは不可能でしょうから)たとえば千日手を避けたら初期局面の評価値より悪くなるくらいにするとか。
将棋指しの感覚としては千日手ぐらい簡単になるやろ、というのがあるとは思うのですが、有利な局面での勝ち方も無数にあるやろ、というのも将棋指しの感覚としてあると思うので、本当に無数にあるなら、千日手ぐらい回避できそうなもんですしな…。
囲碁では、コミというハンデが設けられていて徐々に目数が増えてきています。現在日本では6目半が多く、中国では7目半が主流の様です。
人間同士の将棋でも適切なハンデを設けるか或いは先手と後手で勝って1勝とするかが必要になるでしょう。
AIで適切なハンデが開発されると良いと考えていますが、如何でしょうか。
(上位の同じ)将棋AI同士の対局では先手勝率が7割ぐらいなので、先手での2勝が後手の1勝に換算するぐらいが適切なのですが、プロ棋士の先手勝率はそこまで高くないですし、アマ初段ぐらいですと先手勝率は5割に近いので、将棋AIの勝率を基準にして考えてしまうと人間には厳しすぎるようです…。